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治癒のきっかけ

2006年08月21日 / 月曜日 / AM 8:54

私も体験しましたけど、抗うつ剤を服用しはじめた数日間、全身倦怠感やふらつき、口の渇き、便秘など、うつ病本来の身体症状に酷似した症状が強くなることがあります。

一般に、副作用とみなされるこの症状こそが、うつ病を治療するための重大な鍵ではないかと、精神医学者の木村敏先生が、『生命のかたち/かたちの生命(青土社)』の中で次のような指摘をされています。

人は本来疲れたならばすぐに身体的な調節反応が出て休息するのであるが、うつ病になるひとの場合、よく知られているその几帳面で律儀な性格ゆえに、うつ病という病的な反応になるまで休息できない。抗うつ薬は、彼らの阻止されているごく自然な身体の調節機能が発現するように助けるのであり、それがうつ病の治療に結果的につながるのではないか。

この考えは、薬が状態を直接改善するのではなく、薬は治癒の「きっかけ」であるばかりでなく、うつ状態、うつ病自体が、自己治療のための主体的で自立的な営みであることも示唆しているのです。

これに類似したことは、日常の臨床場面でもよく起きます。クリニックで処方した薬を飲み始めた途端に風邪を引いて、しばらく薬が飲めなかった。風邪が治ったら、もとの悩みも軽くなっていた・・・など、タイミングとしか思えないような出来事が起きて、状態が良くなってしまうのです。

こういう身体の変化だけでなく、「話す」「語る」ということで、変化がもたらされる場合もあります。だけど、多くの人は「話をしているだけでは現実は変わらないのではないか」と思っていらっしゃるようですが。そういう方でも、「こちらにうかがうのも、かなり迷いました。でも思い切って来て話せて良かったです。なんだかスッとしました。」とおっしゃるのです。

「弱音を吐ければ道が開ける」と心理学者の諸富祥彦先生もおっしゃっているように、回避しようと躍起になっていて苦しかった悩みや問題を話すことで、つらさを受けとめることになるのでしょう。フォーカシングの用語を借りると、「話す」「語る」ということで、自分の悩みを「整理する(クリアリング・ア・スペース)」し、つらさと「距離を取る(内なる自分とのかかわり方:脱・同一化)」ことが出来るようになるのだと思ってますけど。


話題は、その人自身の悩みやつらさだけでなく、痴呆のおじいちゃんへの対応だったり、身内の病気のことだったり。あるいは信仰の事まで話がおよぶこともあります。医学的な解説はするものの、「ふんふん、ナルホド・・」と相づちをうちながら聴き、あるいは「こういうことだったの?」と聞き返しながら、自分もその場に臨席しているような気持ちになってきますし、時には胸がいっぱいになって涙がにじむことも。

「この前、こちらにうかがった後、帰りになんだか全身のエステでも受けた後のように、肩がずっと楽でした。」

「ここに来るだけで、元気をもらっているような気がします。」

「来るのがすごく楽しみなんです。来た後、何日かはすごく調子がいいんです。」


こんな風に感じてくださっている患者さんは、私自身は、何にもしてないのに、勝手に良くなっちゃって、ビックリすることがあります。そうなると「そろそろ卒業ですね。」ということで、患者さんの良くなり方にも拍車がかかります。フロイトの患者アンナ・Oが「お話による治療(トーキング・キュア)」と名付けたように、「物語る」ことと、セラピストがファンタジーを大切にした「語り」に同行することによって、新たな現実が紡がれ癒されていくのでしょう。

「卒業」という言葉を使うのは、その人の心の深い部分から変容が起きたことを実感するからなんです。同じような状況があったとしても、その人は以前のその人とは全然違う。だからもう卒業なんです。薬物用法だけではこうはいきません。心理療法を併用することで、はじめて卒業できるんです。


「カウンセラーの仕事は、その人といっしょにのたうち回ることです。一人でのたうち回るのと、二人でのたうち回るのでは大違いです。」とは前出の諸富先生の言葉。

私はのたうち回ったりはしないんですが。。。(苦笑)
以前トンレンという教えを受けたことがあって、セラピストが同じ思いを共有することで、その人のつらさが半減するのだと思うのは、この考えがベースにあるからなのです。

でもスーパーヴァイザーからは「生野さん、教育分析やスーパーヴィジョンで気持ちを吐き出さないと、生野さんがまた鬱になっちゃうよ!」と言われています。鬱になるのは構わないんだけど、診察室のサイドテーブルの一番上には、いつも抗うつ用、体力増強用の漢方薬を常備してるのは、鬱になりたくなくて、いや、今鬱になっちゃうと患者さんに迷惑をかけちゃいそうだから、無意識にのたうちまわっているからなのかもしれませんが。

日常の診療で感じている、とりとめもない雑感を書いてみました。

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