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2006年09月11日

うつの精神心理療法

日本では、うつに対するフォーマルな精神心理療法を併用することはあまり多くなく、改善がみられない場合でも長期間クスリでなんとかしようとする風潮が主流になってますが、アメリカ厚生省公衆衛生局保健政策調査課(AHCPR)のガイドラインでは

「軽症から中等症のうつ病で、患者が望む場合には、抑うつ症状の軽減を目的として、精神療法(週1回、6〜12週)が最初から実施できる」

とされています。

アメリカ精神医学会(APA)では、うつ病に対する精神療法が有効な例として、

1.軽症から中等症
2.患者さんが希望する場合
3.心理的ストレスがある場合
4.内的な葛藤がある場合
5.対人関係の問題がある場合
6.認知、感情、衝動のコントロールが影響している場合
7.妊娠を希望する場合、妊娠中、授乳中

があげられています。


目立った心理的ストレスがある場合、内的な葛藤がある場合、対人関係の問題がある場合、認知、感情、衝動のコントロールが難しい場合で、中等度から重度のうつ病の時には、薬物療法と精神療法の併用を考慮した方がいいと思われます。また過去にどちらか単独の治療では十分な治療効果が得られなかった場合や、再発した場合なども薬物療法と精神心理療法の併用が適応になるということです。

つまりクスリを使わずうつの治療が可能な条件とは、程度が比較的軽度で、環境、役割の変化や喪失体験といったストレスの原因がはっきりしている場合。
たとえば喪失体験の後のさまざまな感情(悲哀のプロセス)が中途で止まっていることが原因になっている場合などでは、カウンセリングなどで「悲哀のプロセス」をサポートする必要があります。喪失したことは事実として認め、受け入れ、揺れ動く感情は異常なことではないという体験を経ながら、現実に即した新しい生活を再構築していくのです。

また、性格の偏りや未熟さ、認知の歪みがうつ状態を引き起こしていると考えられる場合や、軽度のうつ状態が長く続くようなとき、あるいは、うつが改善した後に残るおっくうな感じ、生きがいや興味が見つからないという状態が長く続くときにも、精神心理療法が有効である場合があります。


アメリカではうつ病に対して、認知行動療法と対人関係精神療法が行われており、そのどちらともだいたい週1回50分程度の定期的な治療面接を行い、同じくらいの治癒効果、再発予防効果があることが示されています。また、再発予防に関する研究では、通常の薬物療法では約60%が再発するのに対し、認知行動療法のような精神心理療法を受けた群では再発率は40%以下に低下することがわかっています。


認知行動療法では、ある状況で自然に起こってくる思考(自動思考)を通して、自分の心のクセや思考のパターンを知ることからはじめます。そのことによって、憂うつな気分の原因である非適応的思考やマイナス思考から抜け出し、気分の改善を図ることを目標とします。
もう少し進んで、第三世代の認知行動療法では、思考はあくまで思考であり、個人に脅威を与える現実ではなく、避ける必要もないことを体験していくのです。つまり、自覚、判断しない観察、固定観念からの脱却、現在への気づき、解き放つことなどを、身体のリラクゼーションとともに体験することを積み重ねていくのです。

そうはいっても一人平均15分間の普段の診察場面ではフォーマルな精神心理療法を行うことが難しいので、南青山心友クリニックでは、セラピールーム游(ゆう)のセラピストにお願いして、認知行動療法をやってもらってます。もちろん、診療場面でも、

固定観念からの脱却
思考はあくまで思考であり、現実ではない
回避は苦痛を持続させるのみ
不安を押さえつけようとしなければ、苦痛は軽減する

を中心に、お話による治療(トーキング・キュア)を行っています。
次回は、ちょっとだけ、例をあげて説明してみますね。

2006年09月04日

カウンセリングで鬱(うつ)な自分と向き合う

以前「うつは心の風邪?」というブログで、私自身の鬱の体験を書いたことがあります。

WHOの調査では、うつ病の健康を脅かす危険度は、三大疾患(虚血性心疾患、脳血管疾患、悪性新生物(ガン))に次いで4位ですが、2020年にかけて虚血性心疾患に限りなく近い2番目に危険度の高い疾患となることが予測されているのです。

うつ病がクローズアップされるのは、再発性や反復性、慢性化しやすいという特徴があるからです。
1度うつ病になると、20週間のうつエピソードを一生のうち平均して4回経験するほど再発リスクが高いと言われています。実際、私も大きな鬱の後、2度ほど落ち込みを体験しました。ですから欧米では、うつ病の再発や反復を効果的に予防することが重要な課題となっているのです。

欧米ではうつ病の再発予防として、抗うつ薬の継続服用や心理学的予防法が考えられています。うつに有効で薬物療法と同等か、それ以上の再発予防効果があると認められているのは「認知行動療法」と「対人関係療法」とされています。詳しいことは、またいつかブログで紹介しますけど、うつになりやすい人の性格として「責任感が強く」「几帳面」で
「仕事熱心」と言われています。自分自身の心身の疲労もかえりみず、がんばり続けてしまい、ストレスをためこんでしまうのです。このような性格傾向の人は、真面目すぎて融通がきかないので困難な状況になると、一層、柔軟性を失ってしまいます。そうなると、ダメな自分を責め、将来に期待が持てないというネガティヴな思考パターンの繰り返しが形成され、抑うつ状態のエピソードが繰り返し経験されるにつれて、環境的なストレスによらずに自動的にうつ状態が引き起こされてしまうのです。

つまり、うつになりやすい人というのは、自分の「感情」を抑え込み、「こうしなきゃ!」という強迫的な「思考」を中心に生きているのです。私もカウンセリングを受け始めた当初、思考と感情のギャップに戸惑いました。お恥ずかしい限りですが、カウンセラーから「その事をどう感じますか?」って聞かれて、延々と状況を説明したりして「考え」を話していたのですから。その頃は自分の感情は良くないもので、それを表に出すことは、すごく恥ずかしいことと感じていたようです。

ある時、子供の頃の話になりました。どんな「思い」を抱いていたのかを聞かれ、何か響くものがありました。小さな頃からずっと「オトナになるまでまだ何年もある・・・」と生き辛さを感じていたのですから。それは自分の思い通りにならない現実と、自分に課せられた期待と、もっと自由に生きたいという思いと、いろんなものがごちゃ混ぜになった感覚でした。「じゃあ、今度、子供の頃の思い出を話してくださいね」と宿題を出され、その日の夜、一人で子供の頃の記憶をたどったのです。

古いアルバムを引っ張り出し、そこに写っている子供の頃の自分を見ながら、さまざまな想いが交錯しました。あぁ、この頃はこんなことを感じてたんだ・・・・と、涙が止めどなく溢れてきて、誇張でなく枕にしていたクッションがぐっしょり濡れるくらいに泣きはらしました。飼っていた猫がいなくなったときのこと、学研の「科学」という本を買ったことを黙っていて親から折檻され、夜中に近くのお稲荷さんの裏山で、「いなくなりたい」と泣きじゃくったこと・・・・こういう話を書くと、今でもノスタルジックでメランコリックな気持ちになっちゃいます。。。。カウンセリングをきっかけにして、封印されていた感情や感覚が溢れてきたという感じでした。

次の日の夜も、その次の日の夜も、同じように子供の頃の思い出をたどりました。伝えられなかった百千の思いと、消えていった幾万の想い。それらが今の自分とともにあることが不思議な気がしました。そんなときある思い出を思い出したのです。

それはお稲荷さんの裏山に虫取りに行ったときのこと。セミの声の他は音が聞こえない深閑とした林の中で感じたあの感じ。木立の隙間から見上げた空の青さが、この世の中に独りぼっちなんだという哀愁を呼び起こすと同時に、何となく暖かいものに包まれているように感じたあの瞬間。そういえばそれは、夜中に泣きながら其処にいたとき感じた、夜の闇の肌触り。。。途端に、意識が子供の自分から、子供の自分を視ている今の自分に戻りました。イメージの中で過去と今がつながったのです。あの時の自分を包んでくれたのは、今の自分なんだ・・・。ずっと昔から、自分は自分でしかなかった。苦しみ抜いて、ボロボロになって懺悔をしたときの、風にそよぐ木々がやさしかったこと。物心ついてから、いつも見上げていた空の先に、今の自分の視点があったんだ・・・。すべてはつながっていたんだ・・・。世界はずっとこんなに優しかったんだ。。。

うつでメンタルクリニックに通院を始め、カウンセリングを受けるようになってから、5ヶ月目のことでした。次の月には抗うつ剤もアモキサン+ルボックスからトレドミンに変更になり、抗不安薬、睡眠導入剤も中止になって、やっとうつのトンネルの先に、出口の明るさが感じられるようになったのです。

今は自分が治療者としてうつの人と向き合うようになってみると、やっぱりかつての私がそうであったように、感情や感覚を感じられず、律儀で一生懸命に「考え」ている人が多いと実感します。抗うつ剤の助けがなければ、うつの思考の悪循環から抜けられなかったのは事実です。でも抗うつ剤だけでは、また同じ状態に戻るだろうということも体感として感じていました。それでカウンセリングを求めて受診したのです。

だからこそ、クリニックを受診してくださる方に、うつから卒業してもらいたいと思っています。うつが良くなるとか、うつから回復するということではなく、うつからの卒業。それは逆説的なようですが、うつを生きることで二度とうつにならないという資格ですし、治療者やクスリの助けを借りて自分で自分の人生の道のりを運転できるようになる運転免許のようなものです。同時にうつは本当の自分と出会い、他でもない自分自身として生きるための、この上ないきっかけだと思うからなんです。